独学で学ぶFP2級|相続・事業承継(2)
FP2級の学習(独学)に役立つ無料テキスト(教科書)を作成しました。このテキストはFP2級試験の幅広い範囲を網羅しており、効果的な学習の参考資料として活用できます。ぜひ、FP2級合格のために役立ててください。また、記事には、独自の試験対策コメントも入れていますので参考にしてください。
FP2級試験範囲を順に進めていきます。この記事では以下を取り上げます。
- 相続と法律(1)法律等
- 相続と法律(2)遺産分割
- 相続と法律(3)遺言・遺留分
相続と法律(1)法律等
相続とは
相続とは、被相続人(亡くなった人)が死亡時点で保有していた全ての財産・権利・義務を、配偶者や子供などの一定の範囲の親族が受け継ぐことをいう
相続開始日は、「被相続人が死亡した日」。行方不明で生死が不明な場合は、失踪宣告により死亡とみなされて相続が開始する。失踪宣言には、普通失踪と特別失踪の2つがある
普通失踪
通常時に行方不明になった場合の失踪宣告。生死不明となって7年経過した場合に死亡とみなされる
特別失踪
難破や飛行機事故、天災に巻き込まれて行方不明になった場合の失踪宣告。1年以上消息不明の場合死亡とみなされる
なお、相続開始の場所は、死亡時の被相続人の住所地となり、相続税の申告書は住所地の税務署長に提出する。
民法上の親族
民法上の親族とは、6親等内の血族、配偶者及び3親等内の姻族(下図、一部略)。血族とは血縁関係にある人のことを指し、姻族とは配偶者の血族のことを指す
民法上の養子
養子には、普通養子と特別養子がある
- 普通養子
- 実親との親子関係はそのまま継続
- 相続は、養子縁組をした養親と実親の両方に対して発生
- 養親になるには、20歳以上で養子より年上であることが要件
(成人年齢は18歳ですが、養親は20歳) - 未成年者を養子とする場合は、家庭裁判所の許可が必要
- 実親の同意は不要(養親と養子の間の同意があれば良い)
- 特別養子
- 実親との親子関係が終了する
- 養親の年齢は25歳以上(夫婦どちらかが25歳以上であれば、一方は20歳以上で良い)
- 養子になる者は、原則15歳未満
- 原則、実親の同意が必要
相続人
民法で定める相続人は法定相続人と呼ばれ、以下の者が該当する。なお、相続には優先順位があり、順位が上の者が相続した場合は、原則として下位の者は相続できない
常に相続人となる | 配偶者(正式な婚姻関係のある者) |
第1順位 | 子(養子・非嫡出子を含む) |
第2順位 | 直系尊属(父母、父母がいなければ祖父母) |
第3順位 | 兄弟姉妹 |
なお、相続欠格や相続排除にあたる場合は、法定相続人であっても相続することができない
相続欠格
相続欠格の事由に該当する者は、相続する資格を失う
相続欠格の事由
- 被相続人を殺害、または、先順位もしくは同順位の者を殺害、または殺害しようとして刑に処せられた
- 詐欺、脅迫により被相続人に遺言書を書かせた、または、変更・取り消しさせた
- 遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した
相続排除
相続排除は、被相続人を虐待・侮辱していたなど、著しい非行や悪行があった者を家庭裁判所へ申し立て、審判を経て相続権を喪失させること。これが認められるには条件があり、どんな理由でも排除できるわけではない。
なお、排除は取り消すことが可能
相続人不在の場合
相続人となるべきものが存在しない場合は、家庭裁判所が選任した財産管理人が法律に基づいて精算等の手続きを行う。
相続分
民法で定められた相続分を法定相続分という。また、遺言等による相続分を指定相続分という
法定相続分は以下の通り。なお、民法上、配偶者は常に相続人となる
相続人 | 法定相続分 |
配偶者と子 | $$\begin{eqnarray} 配偶者&\ &\frac{1}{2} \\ 子&\ &\frac{1}{2} \end{eqnarray}$$ |
配偶者と直系尊属 | $$\begin{eqnarray} 配偶者&\ &\frac{2}{3} \\ 直系尊属&\ &\frac{1}{3} \end{eqnarray}$$ |
配偶者と兄弟姉妹 | $$\begin{eqnarray} 配偶者&\ &\frac{3}{4} \\ 兄弟姉妹&\ &\frac{1}{4} \end{eqnarray}$$ |
試験対策としては、私は子・直系尊属・兄弟姉妹→2,3,4と覚えていました。
- 正式な婚姻関係にある配偶者のみが相続人となる(内縁の配偶者は相続人とならない)
- 同一順位の相続人が複数人いる時は、相続分を均等に分割(例えば、配偶者と子が2人いる場合は、子の相続分はそれぞれ4分の1(2分の1の2分の1)づつとなる)
- 実子と養子の相続分は同じ
- 兄弟姉妹(異母や異父)の相続分は、父母の双方が同じ兄弟姉妹の2分の1となる
- 相続開始時に胎児であった者も相続権がある(死産の場合を除く)
代襲相続
本来相続人となるべき者が、相続開始時に既に死亡している場合、または相続欠格、相続排除で相続権を失っている場合、その者の子が相続人となる。これを代襲相続人という
- 代襲相続人の相続分は、本来の相続人と同じ相続分
- 本来の相続人が相続放棄した者場合は、子は代襲相続人になれない
- 被相続人の子が死亡している場合は、子の子(孫)が代襲相続人となる。孫が死亡している場合は、孫の子が代襲相続人となる(どこまでも下に代襲相続可能)
- 本来の相続人が兄弟姉妹の場合は、その者の子までしか代襲相続できない
- 代襲相続人が複数人いる場合(子の子が複数人いる場合など)は、均等に分割する
相続の承認と放棄
相続人は、被相続人の財産や債務を相続するかどうか選択することができる
相続の承認には、「単純承認」と「限定承認」がある
単純承認
被相続人の権利・義務・債務を全て受け継ぐ方法。積極財産(プラスになる財産)だけでなく消極財産(借金など)のどちらも相続することになる。
限定承認
積極財産の範囲で消極財産を支払う義務を負う方法。債務が資産より多い場合は、支払う必要はない
- 相続を知った日から3ヶ月以内に相続の放棄や限定承認をしなければ、単純承認したことになる
- 限定承認は、相続人全員が共同で家庭裁判所へ申述する必要がある
- 相続放棄は、相続人が単独で行うことができる
- 原則、撤回できない
- 相続放棄前に、被相続人の財産の全部または一部を処分した場合は、単純承認したものとみなされる
- 相続放棄は、被相続人の生前に行うことはできない
その他、法律上のポイント
特別受益者
特別受益者とは、被相続人から生前贈与によって特別の利益(特別受益)を受けた者のこと。生前贈与があった場合、他の相続人との公平を期すために、相続時に特別受益額を加えたみなし相続財産を基に各人の相続額を計算する
寄与分
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に貢献した者、被相続人を非常によく看病・介護した者などがいる場合に、その相続人の相続分に上乗せされる寄与に相当する額のこと
特別寄与料制度
寄与分は相続人のみに認められているため、相続人ではない親族が無償で介護等と行なっても対象とならない
特別寄与料制度は、相続人以外の被相続人の親族が、被相続人対して特別の寄与を行った場合には相続人に対して特別寄与料を請求できる制度
- 特別寄与料の負担
各相続人が、相続分に応じて負担 - 特別寄与料に対する税金
遺贈により取得とみなされ、相続税の対象となる(特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に申告書を提出(2割加算の対象)) - 請求期限
特別寄与者が相続の開始を知ってから6ヶ月以内に相続人に対して請求(相続の開始を知らなかった場合は1年以内)。協議がまとまらない場合は家庭裁判所への調停申立て
配偶者居住権
配偶者居住権とは、被相続人の配偶者が、被相続人の所有していた建物に無償で居住することができる権利のこと
配偶者居住権と配偶者短期居住権がある
配偶者居住権
相続開始時に被相続人所有の建物に配偶者が居住していた場合、一定の要件を満たすことで配偶者が賃料の負担なく住み続けることができる権利。原則として、終身で居住建物に住むことができる。
配偶者居住権を相続し登記することで住み続けることが可能。建物の所有権とは区別された居住権であるため、建物を相続する必要はない
配偶者短期居住権
相続開始時に被相続人所有の建物に住んでいた配偶者が遺産分割協議が成立するまでの一定期間、その建物に無償で住むことができる権利。相続が開始すると自動的に配偶者に権利が発生(権利は相続財産には含まれない)
居住権だけが配偶者の相続対象となるので、建物を相続するのに比べて金額が小さくなります。その分、配偶者は現金など生活に必要となるものを相続できるようになります
夫婦間で贈与された居住用不動産の遺産分割時の特例
「夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」を受けて贈与された居住用不動産等の贈与については、この特例の適用を受けて3年以内に贈与者が死亡した場合でも、2,000万円までは相続税の生前贈与加算の対象にならない
成年後見制度
成年後見制度とは、認知症などの理由で判断能力が不十分な人を保護・支援する制度
法定後見制度と任意後見制度がある
法定後見制度
本人の判断能力が不十分となった後に、家庭裁判所により選任された成年後見人(保佐人、補助人)が支援する制度。「後見」「保佐」「補助」の3つの制度があり、本人の判断能力により決まる。
任意後見制度
本人の判断能力が十分あるうちに、あらかじめ後見人となる者を定めておく制度。本人と任意後見人となる者の間で、任意後見契約を締結しておく(公正証書による締結)。判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所に申立て。任意後見人は、配偶者や親族だけでなく弁護士などもなることができる(資格不要)
相続と法律(2)遺産分割
遺産分割の方法
遺産分割の方法の種類
- 指定分割
- 遺言により分割する方法
- 遺産の全部または一部について行うことが可能
- 原則、協議分割、調停分割、審判分割より優先される
- 協議分割
- 相続人全員の合意により分割する方法
- 遺言で禁じられた場合を除き、遺言と異なる協議分割も可能
- 協議成立後、全員が署名押印した遺産分割協議書を作成する
- 遺産分割協議書作成後でも全員の合意があれば再分割協議可能
- 調停分割
- 協議分割でまとまらない場合に、家庭裁判所の調停により分割する方法
- 審判分割
- 調停分割でまとまらない場合に、家庭裁判所の審判により分割する方法
遺産分割協議書には特に書式などはありませんが、相続人全員の署名捺印が必要となります(自署、実印での押印と印鑑証明書が必要)。
財産の分割
- 現物分割
相続財産そのものを分割する方法(長男は土地A、次男は土地Bなど) - 換価分割
相続財産の一部または全部を売却して、その代金を分割する方法。売却時に所得税が課されることがある - 代償分割
特定の相続人が財産を取得して、代わりに自分の固有財産を他の相続人に支払う方法。代償財産は贈与税ではなく、相続税の対象となる- 会社や土地などの分割が困難な財産に有効な分割方法
- 土地や家屋を代償財産とした場合、時価で譲渡したとして代償分割した者に所得税・住民税が課されることがある(譲渡所得)。
遺産分割の例(パターン)
以下、配偶者と子がいる場合の法定相続人のパターンをいくつか示す(赤枠で囲まれた者が法定相続人)
配偶者と子が2人いる場合
子が死亡して、孫がいる場合
配偶者と子が2人、内縁の妻とその子がいる場合
相続と法律(3)遺言・遺留分
遺言
遺言(いごん)とは、死亡後の財産処分などについての意思表示をするもので、遺言者の死亡と同時に効力を発する法律文書(法律行為)
- 満15歳以上の意志能力を有する者であれば、誰でも遺言を作成できる
- 遺言はいつでも、自由に撤回可能(全部または一部)
- 特定の財産のみに関する遺言も可能
- 遺言が複数ある場合は、日付の新しい方が有効となる
- 遺言書の財産目録は、パソコンで作成することが可能
- 遺言により相続の開始から5年を超えない期間を定めて遺産の分割を禁じることが可能
遺言の種類
種類
遺言には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言がある。それぞれの特徴は以下の通り
- 証人 不要
- 検認 要
- ポイント
- 本人が作成(パソコン・代筆不可)
- 目録はパソコンや代筆可能(本文は自筆である必要がある)
- 法務局で保管可能。この場合は、家庭裁判所での検認は不要
- 証人 要(2名以上)
- 検認 要
- ポイント
- 本人が口述して公証人が筆記
- 公証役場で保管、偽造・変造などの危険が少ない
- 証人 要(公証人1人、証人2人以上)
- 検認 要
- ポイント
- 本人が作成(代筆やパソコン可)し、署名・押印。公証人が日付を記入
なお、証人には相続人(推定相続人)や、その他利害関係者、未成年者はなることができない
検認
検認は、遺言者が死亡し相続が発生した場合に、家庭裁判所が行う手続き
検認は、相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせる行為であり、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き。遺言書の有効・無効を判断するものではない
なお、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立ち会いの上で開封する必要がある
遺言者の死後に遺言書を見つけた場合は、開封せずに遅延なく家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません
遺留分
遺留分とは、相続人に法律上保障された一定割合の相続財産のこと。遺留分を有する者は、遺言などに関係なく、一定の相続財産を請求することが可能
遺留分権利者
配偶者、子(代襲相続人を含む)、直系尊属(父母など)
遺留分の割合
直系尊属のみが相続人(配偶者もいない)場合、財産の3分の1
上記以外の場合は、財産の2分の1
※上記に各自の法定相続分を乗じた割合が相続できる割合となる
試験対策としては、例をあげておきます。例えば、配偶者と子が2人の場合は、遺留分が2分の1、法定相続分が配偶者が2分の1で子がそれぞれ4分の1なので、各人の遺留分は配偶者が4分の1、各々の子が8分の1となります
遺留分侵害額請求権
遺留分侵害額請求権とは、遺言や生前贈与で遺留分が侵害された場合に、慰留分を請求することができる権利。遺留分の侵害を知った日から1年以内、もしくは相続開始から10年以内に請求しなければ権利は消滅する。遺留分の請求は、意思表示するだけで良い(裁判などは不要)
生前贈与に関しては、相続開始前から10年以内の贈与に限定(それ以前は対象とならない)
遺贈と死因贈与
遺贈
遺贈とは、遺言により財産を特定の人(相続人以外の第三者でも良い、受遺者と呼ぶ)に一方的に贈与する行為。遺贈による財産は相続税の対象となる。
死因贈与
死因贈与とは、贈与者と受贈者の合意に基づく贈与で、贈与者が死亡した時に贈与の効力が発生する贈与のこと。贈与税ではなく、相続税の対象となる